
会陰部痛(えいんぶつう)とは
会陰部痛とは、陰部(男女の外性器)と肛門の間にある「会陰部」に痛みを感じる症状のことです。
男性では陰嚢(睾丸)と肛門の間、女性では腟と肛門の間の部分を指します。この部位には前立腺や尿道、膀胱、直腸といった臓器が近接しており、それらの病気や損傷によって痛みや違和感が生じます。
中高年の男性や出産直後の女性によくみられますが、若い世代の男性にも起こり得る症状です。痛みの感じ方は人それぞれで、「股の付け根が重苦しい」「ヒリヒリと熱い痛みがある」「ピリピリする違和感が続く」など様々に表現されます。
また、会陰部の痛みに加えて発熱(高熱)、排尿時の痛み(排尿痛)や灼熱感、トイレが近い(頻尿)・残尿感がある、腰痛、陰嚢の痛みといった症状を伴うことも多いです。多くの場合、適切な治療でこれらの症状は改善しますが、中には再発を繰り返して慢性化し、長期的な痛みに悩まされるケースもあります。
会陰部痛の主な原因
会陰部の痛みを引き起こす代表的な原因には、男性の場合は前立腺炎や尿道炎(性感染症を含む)、長時間の圧迫やケガなどによる会陰部への外傷が挙げられます。女性の場合は出産に伴う会陰部の損傷(会陰切開や会陰裂傷の傷など)や婦人科系の要因が考えられます。まれに前立腺がん・直腸がんなどの腫瘍が原因で痛みが出ることもあります。
- 前立腺炎(ぜんりつせんえん)
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前立腺に炎症が起こる病気で、会陰部痛の原因として最も一般的です。
細菌感染によるもの(急性・慢性細菌性前立腺炎)と、原因がはっきりしない非細菌性のもの(慢性骨盤痛症候群とも呼ばれる)に分けられます。前立腺炎になると、会陰部や下腹部、陰嚢や鼠径部(足の付け根)などに鈍い痛みや不快感が現れ、排尿痛、頻尿、残尿感、射精時痛など様々な症状を伴います。前立腺炎は男性の25〜50%が一生に一度は経験するといわれる比較的ありふれた疾患で、中高年に多い前立腺肥大症とは異なり10代から発症することもあります。
決して珍しい病気ではないため、「自分は前立腺炎なんて起こさないだろう」と油断しないでください。急性前立腺炎では高熱が出て症状が強く現れるのに対し、慢性前立腺炎は原因不明の場合も多く症状が長引く傾向があります。
- 尿道炎・精嚢炎
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尿道や精嚢に炎症が起こると会陰部付近に痛みや不快感が現れることがあります。
男性の尿道炎や精嚢炎は主に淋菌やクラミジア感染症(性感染症)が原因で発症し、排尿時の痛みや尿道からの分泌物(膿)を伴うことがあります。女性の尿道炎では膀胱炎を併発して下腹部痛や頻尿をきたすことが多いですが、炎症が周囲に及べば会陰部に違和感を訴えるケースもあります。性感染症以外にも細菌や真菌による尿道炎が起こる場合があり、男女とも原因菌に合った抗菌薬の治療が必要です。
- 会陰部への圧迫や外傷
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自転車やオートバイの長時間の運転、硬いサドルでのサイクリング、長時間の座位などにより会陰部が圧迫されると、局所の血流障害や神経刺激で痛みを生じることがあります。実際、慢性前立腺炎の一因として「長時間のデスクワークや運転で会陰部が圧迫される生活習慣」が関連すると指摘されています。また、会陰部への打撲など物理的なケガでも痛みが出ます。男女問わず起こり得ますが、特に自転車競技者や長時間座りっぱなしの仕事をする方は注意が必要です。
- 産後の会陰部痛(女性の場合)
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出産時に会陰部が裂けたり会陰切開の傷ができたりすると、産後しばらく会陰部の痛みが続くことがあります。
通常、軽度の傷であれば産後1週間ほどで痛みは和らぐケースが多く、傷の回復とともに2週間程度で気にならなくなるのが一般的です。会陰切開や浅い会陰裂傷の場合でも平均2〜3週ほどで痛みが消失するとの報告があります。ただし、傷口が化膿したり深い裂傷がある場合は痛みが長引くこともあるため、産後1ヶ月健診などで状態を確認し、痛みが強いときは産科の担当医に相談しましょう。
また、産後以外の婦人科系の原因として、子宮や卵巣の疾患による下腹部痛が周囲に放散して会陰部に違和感を覚える場合も考えられます(頻度は多くありません)。婦人科的な痛みなのか泌尿器系の痛みなのか判断が難しいケースもありますので、気になる症状があれば専門医にご相談ください。
症状を放置することによるリスク
- 感染の悪化・全身への波及
- 細菌感染が原因の場合、適切な治療をしないでいると炎症が周囲や全身に広がり、症状が急速に悪化する危険があります。
- 慢性化・長期化による生活の質低下
- 細菌感染が原因の場合、適切な治療をしないでいると炎症が周囲や全身に広がり、症状が急速に悪化する危険があります。例えば急性前立腺炎では、放置すると短時間で重症化して敗血症(全身性の細菌感染症)に至るリスクがあり、命に関わることもあります。
- 生殖機能・排尿機能への影響
- 初期の対処を怠ると、痛みが慢性化して治療が困難になる場合があります。前立腺炎の場合、急性の段階で適切に治療しないと慢性前立腺炎(慢性骨盤痛症候群)へ移行し、痛みや違和感が数ヶ月以上にわたって続くことがあります。
よくある質問
当院へご相談ください
当院では、会陰部痛の原因を明らかにするための各種検査を組み合わせ、総合的に診察いたします。来院時にはまず医師による問診を丁寧に行い、症状の経過や強さ、きっかけとなる出来事、既往症や服薬中の薬などを詳しくお伺いします。
「もしかして受診するほどではないかな…」と迷う症状でも遠慮なくご相談ください。適切な検査によって原因を突き止め、早期に治療を行うことで、つらい会陰部の痛みから解放されるお手伝いをいたします。
